第一章 全ては詐欺から始まった

弟の1本の電話が私の原点。

 「どうなっているのか良くわからないので調べてくれないか。このごろ現場に行くと、なんだかおかしいんだ。」平成五年四月のことだった。リフォーム会社を経営している弟の明(あきら)から電話があった。

 「工事代金はタダだからできる範囲でやってくれ…。」と施主の現場へ行くと言われるので、どうなっているのか調べてくれないか、というのだ。ちゃんと工事代金は遅れずにきちんと払ってくれている。だけれど施主の客は「タダだ。」と言う。「タダ」といっても」一万二万の話ではない。三百万円四百万円、時には五百万円を超えるリフォーム工事もあるという。

 リフォーム業界などちんぷんかんぷんの私であったが、「タダできる。」の言葉に妙に引かれ、弟の頼みを聞くことにした。

それから十五年、私は銀行と住宅ローンに未だに係わっている。そしてこれからも係わっていくと心に決めているし、今ではこれほどやりがいのある仕事は、他には無いと思つている。

 弟がリフォーム工事を受けているリフォーム営業会社には、六月から勤めることにした。そしてすぐに「タダの仕組み」はわかった。難しいことはなかったが、正直やられたと思った。「タダの仕組み」はこうだ。

住宅ローンの高い金利を低い金利に替える。それだけだった。

 高い金利から低い金利に替えれば、月々の支払金額は当然安くなる。月に三万円安くなって、その分でリフォームをすれば、支払は変わらず、タダでリフォームができたことになる。月に三万円もあれば三百万円のリフォーム工事だ。

うまいこと考えたものだ。誰が最初に思いついたのかは今ではわからない。しかし初めてタダのリフォームの仕組みを聞いた時に、私はすごいショックを受けた。お客に負担を全くかけずに、何百万円もの仕事を受注をする仕組み。そしてその中から白分たちの儲けもだす。それも十分に。

一般の物売りの世界と全く違った、こんないいことずくめの商売など聞いたことがない。これは面白いと、私は営業に夢中になってのめり込んでいった。注文は面白いように取れた。そして気が付くと私はトップセールスになっていた。

毎日忙しく飛び回っている中、あるとき一入の客から電話が入った。

 「二ヶ月も経つのにまだ住宅口ーンの組み替えが終わらない。どうなってるのだ。」と怒りの口調。営業事務担当部長に伝えると「やってるよ。」との返事。営業開拓で新規の客探しで忙しい私は、自分の開拓した顧客がリフォーム工事の後、どうなっているか全く見ていなかった。そのうち同じような苦情が何本も入るようになり、その都度担当部長に確認していたけれど、そのたびにのらりくらりで全く埒が明かない。最後には「実際のところ、住宅口ーンの組み替えはどうなっているのだ。」と詰め寄った。

 そして、返ってきたその言葉に驚いた。

「住宅口ーンの組み替えなど実際はやらないんだよ、うちの会社は…。」

「それじゃ詐欺じゃないですか。」

「ん・・・。まぁ、リフォーム工事を取るための方便だな。そういう会社なんだよ。」

「・・・。」

私は言葉を失った。

 私の営業に同行し、クロージングを担当していた上司に聞いてみた。クロージングとは客の住宅口ーンを診断し、どの位組み替えた結果支払いが浮くのかを計算し、最終的にリフォームを受注すること。毎回金利電卓を巧みに操っていたので、早く私もクロージングができるようになりたいと常々あこがれていた。

「計算なんて、でたらめだよ。適当にさもそれらしく計算しているだけだよ。月三万円浮けば三百万円のリフォームが取れるのだから、合わせているだけさ。」

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