驚いた。実際には計算などしていなかったのだ。電卓はめちゃくちゃに叩いていただけ。
ひどい話だ。

 私は、心から客の為になると信じて営業していた。こんなに顧客に喜んでもらって、しかも収入にもなる。こんなに素晴らしい仕事はない。やっと一生の仕事に巡り合ったと思っていた。その矢先これだ。詐欺の片棒を担いでいたんだなんて。

 すぐに私は仕事を辞めた。


★ 始めたのはいいけれど・・・

 腹が立って仕事は辞めたけれど、住宅ローンの組み替えでリフォームを「タダ」にするこのノウハウは捨てきれなかった。何といっても金利を低いものに組み替えることで、実際の月々の返済額が何万円も安くなり、総額で数百万円も得をするのは事実だし、リフォームにしても、住んでいれば必ずどこかしら家は傷んでくるものだから否応なしにやらなければならない。それを浮いた資金でできるのだから、これを喜ばない人はいない。ただ、あまりにも話が上手すぎるので、騙されてはいけないと人は耳を貸さない。実のところ私が辞めた会社はこの上手すぎる話を餌に、多くの入を騙していた訳だ。警戒されて当然だ。

 実際私が辞めた数年後には、同じようなことをやっていたある会社は警察の取り締まりを受け、経営者と幹部は逮捕された。

 私は考えた。「住宅口ーンの金利を、低いものに組み替えて、利用者の負担を軽減してあげる仕事、浮いた資金を上手に活用することを提案する仕事。考え方は、決して間違っていない。顧客にメリットがあり、喜んでくれるのだから真面目に実行すれば必ず成功できるはずだ。」

「間題は、本当に金利の高いものがら低いものに組み替えでぎるがどうか。全てはここにかかっている。」

 私は考えるより行動するタイプ。今まで営業をしていたので銀行交渉などしたこともなく、銀行と聞くだけで尻込みしてしまう。けれど当たって砕けるしかない。次の日から銀行と言う銀行に足を運び聞きまくった。

 そして又驚いた。

今では「住宅ローンの借り換え」という言葉も一般的で、様々なメディアでも取り上げられているし、銀行も積極的で、広告も行っている。当時(平成六年頃)は「住宅口ーンの借り換え」という言葉もなかった。ここで「住宅ローンの組み替え」と言っているのもそのせいだ。(混乱するので以後は借り換えに統一。)

銀行の窓口で「住宅ローンの借り換えのことで伺いたいのだが・・・。」といってもキョトンとした顔で、何のことかわからない、初めて聞きました、といった風情。
当然専門の担当者などいるはずもなく、聞けば聞くほど私は混乱していった。

「当行ではやっていません」
「できないことは無いと思いますが、当支店では経験がないもので。」
「新規と同じ扱いになると思いますが、ローン事業部に聞いてみないと・・・」
「担保評価によります。」・・・等々。

 住宅ローンを借り換えることなど、銀行自体では全然考えていなかったのだろう。銀行と言うところは、新しいことにはなかなか手を出さない。そこで、アプローチを変えてみることにした。元々住宅ローンの借り換えをしていないのだし、考えてもいないのだから、具体的に相談することにした。

「住宅ローンについて色々お聞きしたいので、詳しい方をお願いします。」

すると、今まで担当窓口の女性が多かったのが、課長クラスが出てくるようになった。

「今私のお客様で、住宅金融公庫の住宅ローンを利用されている方がいるのですが、金利は七・三パーセントなんです。貴行でしたら今、何パーセントで住宅ローンを利用できますか。」
「その場合、月々の支払は幾らになりますか。」
「貴行の住宅ローンを申し込む場合、必要な書類を教えてください。」

 今だったら当たり前のことでも、銀行や住宅口ーンについて全くわからない当時は、銀行を相手にして、一つ一つを確認しながらメモしていった。そして、自分がこれからやろうとしていること、その流れを素直に話した。銀行にしてみれば、何もせずに新しい客を我々が連れていくのだから、断る理由などどこにも見当たらないと思うのだが、そうでもないらしい。色々訪ねた結果、最終的に三つの銀行が受けてくれることになった。

準備はできた。次は営業の方法だ。

前の会社がトラブルを起こしていた直後だったので、どのようにすれば、住宅ローンの金利を低いものに借り換えるこの仕事について、誤解されずに理解してもらえるかが間題だった。この仕事は物売りと違ってお客の一番大きな財産を扱うことになる。だから何よりも信用が第一だ。いくら時間と労力をかけても、結果的に有利な住宅ローンの条件を獲得し、借り換えに伴う諸費用と我々の手数料を含めたトータルで、具体的にお客が得できなければ、仕事の価値は全くないことになる。相手は銀行なのだから、我々が事前の判断で大丈夫と予想していても、銀行がその申込を否決してくればどうしようも無い。

そこで思い切ってこうすることにした。

「借り換えができなかったら、一銭もいただかない。」

成功報酬ということだ。どんなに動いても、時間が掛っても、経費が掛っても、成功できなかったら一銭もいただかないこと。最終的に借り換えの融資が完了し、抵当権の設定登記が終了するまで、一切の請求はしない。お客にしてみればメリットが得られなければお金は一切支払う必要がないのだから、ノーリスクということになる。

 まわりでは反対の声が多かったが、私はこれしかない、これで行こうと決めた。

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